財務と経理の違いと財務の役割

 税理士業務をしていると、「経理」「財務」という言葉をよく耳にしますが、この二つはしばしば同じ意味の言葉として使用されています。企業のお金に関する用語なので混同されがちなのかもしれませんが、本当は明確に分けて理解したほうが良い言葉だといつも思っています。

 「経理」とは、ウィキペディアによると「金銭や物品の出納を、貨幣を単位として記録、計算、管理等することを意味する。」とあります。つまり企業における日々の取引を集計し、試算表や決算書などの資料を作成するまでの一連の業務を指します。
一方「財務」とは、「日々のお金の流れを管理し、資金がショートしないように資金繰りを考え、お金を調達してくる仕事」とあります。つまり出来上がった試算表や決算書を分析して、必要であれば対策を講じるなどの業務を指します。
これらのことからすると「経理」とは「決算書等を作成するまでの業務」であり、「財務」とは「決算書等を作成してからの業務」と言えます。


 消費税や法人税の額を算出するためには、売上の額や利益の額を把握し決算書を作成する必要がありますので、通常は経理の機能を持たない企業は無いものと思われます。何らかの形で必ず経理の機能は存在しているはずです。
しかし財務の機能はどうでしょうか。そもそも世間一般では「経理」「財務」という言葉の区別があいまいであり、かつ人的資源が限られている中小零細企業には、財務の機能を意識して持たせている所は少ないように思います。
おそらく決算書の分析はおろか、受け取った決算書はそのまま書棚に飾ってあるという会社が多いのではないでしょうか。

 多くの中小零細企業は間違いなく経理機能を有し、事務員や税理士に多額の給与や報酬を支払い、多大な労力をかけて決算書を作成しているはずです。
しかし、財務の機能が無いということは、単に法人税や消費税等の納税額を算出するためだけに、多大な労力と費用をかけてしまっていると言うことになります。船を造ることだけに力を入れ、完成した船を水に浮かべることも無く、ただ倉庫に置いているだけのようなものです。

 「財務」はその業務を進めるときには「経理」が作成する決算書等の資料が必要になるので、「経理」は「財務」を行う上において重要です。しかし「経理」単体では大した付加価値を生みません。苦労して作成した試算表や決算書を経営に活かすためにも、「財務」の役割をもっと重視する必要があるように思います。


 財務の役割とは、先述のように資金がショートしないように資金繰りを考え、お金を調達してくること、つまりキャッシュを切らさないようにすることです。黒字にもかかわらず、資金が枯渇して倒産する企業があります。東京商工リサーチの調査によると2016年に倒産した544社のうち半数以上が最終決算で黒字を計上した企業でした。これは財務をおろそかにしてしまった結果なのかもしれません。逆に赤字なのに存続している企業もあります。財務がしっかりしているのかもしれません。

 

 黒字倒産は、健康に自信のある方が自覚症状の無い病気に蝕まれて、ある日突然死を迎えることによく例えられます。こういった病気を早期に発見するという点においては、財務は人間ドックと同じような役割を果たします。売上が急拡大している企業は強気になります。自らが病気にかかっているなど夢にも思いませんので、もっと売上を伸ばそうとさらにアクセルをふかします。そして、ある日突然資金が足りなくなっている事に気がつきます・・・「売上を急に伸ばすことは危険」という病気を早期に発見できていれば防ぐことができた倒産です。

 

 発見した病気に対して、迅速かつ的確な処置を施すことも重要です。赤字で出血がひどければ、即効性のあるリストラ・経費削減で止血(応急処置)を行ったり、病気に侵された資産があれば、切り取るための外科手術を施したり・・・人間も企業も病気は早い段階で対処した方がより効果的です。痛みが無いから、実感が無いからと言って処置を先延ばしにしていると、後々取り返しのつかないことになります。

 

 また、幸い目立った病気が発見されなくても、業歴が長くなれば着実に老化は進んでいきます。老廃物のように不良資産が少しずつたまっていったり、新規先が取れなくなって販売先が硬直化してきたり・・・弱ってきた部分を把握し、目標を設定して強化を行えば、企業は再び若い活力を身につけることができます。

 

 上記はどれも重要な財務の役割ですが、特に重要なのは財務診断です。問題が発生してから慌てて借入に動く経営者の方を多く見てきましたが、対応が後手に回っているので良い結果は得られません。また、資金繰りに窮すると経営者はその能力の半分以上を使って金策に走ることが常です。当然その間は経営者本来の仕事はできなくなってしまいます。よく経営者の方から「お金の心配をしない経営をするにはどうしたらよいか?」というご相談を受けます。そんなときはいつも「財務の強化を図り、しっかりと早めにお金の心配をすることです。」とお答えしています。

 

 財務とは、問題が発生した後にその役割を発揮するものではなく、問題が発生する前から取り組むことに、大きな価値があるものです。 当事務所では、税務だけでなく財務も重視しており、顧問先様の倒産の危険をいち早く回避し、「本当にお金の心配をしない経営」が実現できるようサポートしています。是非ご相談ください。

2017年10月02日