【財務戦略面から見た正しい銀行の選び方】

…金利交渉も重要ですが、どこの金融機関で保証協会を利用するかはもっと重要です。

企業は成長の過程において資金を必要とします。
経営者にとって、資金供給面で最大のパートナーとなるのは金融機関です。
どこの金融機関をパートナーにするかを間違わないようにしましょう。
財務戦略面から見た、当事務所が考える正しい金融機関選びをご紹介します。

■ 創業から年商3億円程度までのステージ
・日本政策金融公庫
・保証協会保証付き信用金庫、信用組合からの融資
・信用金庫、信用組合からのプロパー融資

■ 年商3億円程度から年商10億円程度までのステージ
・日本政策金融公庫
・保証協会保証付き信用金庫、信用組合、地方銀行からの融資
・信用金庫、信用組合、地方銀行からのプロパー融資

■ 年商10億円超のステージ
・日本政策金融公庫
・保証協会保証付き信用金庫、信用組合、地方銀行、メガバンクからの融資
・信用金庫、信用組合、地方銀行、メガバンクからのプロパー融資

目安となる年商規模は地域により異なる可能性はありますが、上記は融資を受けやすい順番です。
最も融資を受けやすいのは日本政策金融公庫、次に融資を受けやすいのは保証協会保証付き融資、次に信金信組プロパー、地方銀行プロパー、メガバンクプロパーと続きます。

いずれの金融機関も商品は融資(お金)ですが、各金融機関の価格(金利)は違います。
金利に無頓着すぎると相場よりも高い金利を支払わされる可能性がありますし、金利にこだわりすぎると今度は金融機関から融資取引そのものを敬遠される可能性があります。

それではまず金融機関の金利がどのように決定されているのかを見ていきましょう。
金利は以下の要素に基づいて決定されています。

◆ 貸し手の収益構造
信用金庫・信用組合は、メガバンクに比べて一般的に0.5%から1.0%程度、貸出し金利が高く設定されています。
理由は収益構造の違いです。メガバンクは市場から大ロットかつ低価格(低利率)で資金を調達し、大企業向けに大ロットで融資を行うため、低利で貸出しても効率良く資金を調達・運用できます。一方、信用金庫は、職員が小ロットかつ高価格(高利率)の定期預金を数多く集め、中小零細企業向けに小ロットの融資を数多く行うため、メガバンクに比べて高コストになるため高価格(高利)で貸し出さざるをえません。
一般的な商売と同じで、取扱高が大きいほど安く仕入れることができるため、売り先にも安く提供することができます。

◆ 借り手の信用リスク
借り手の信用リスクによっても金利は変わってきます。金融機関は、借り手の信用リスクに応じて引当金を積んでいます。当然ながら取引採算を確保するためには設定した引当金以上の金利を設定しています。
同じ融資商品であれば、当然価格(金利)が安いところにお客様は集まります。金利の安いメガバンクは多くの見込み客の中から融資先を選定することが可能です。よって、メガバンクは、数多くの見込み客の中から、無理をせず、信用力の高い企業にだけ貸出を行おうとします。その結果、引当金は少なくなります。
一方、お金の仕入れコストが高い信用金庫・信用組合は、価格(金利)でメガバンクに勝てません。そこで信金信組は、メガバンクが融資をしない企業の中から融資先を探すことになります。その結果、引当金はメガバンクより多く積まれることとなります。

◆ 金融機関との交渉
さて貸出し金利は貸し手の収益構造と借り手の信用リスクで決まることが分かりましたが、最も重要なことは「まず借りる事」です。
「金利が○%以下だったら借りてあげても良い。(金利が○%超だったら借りない。)」というぐらい強い立場であれば話は別ですが、ほとんどの会社は「借入れを必要とする」立場だと思います。

貸し手に収益メリットが無くなるほどの行き過ぎた金利交渉を行った結果、調達そのものが出来なくなっては本末転倒です。

500万円(返済期間5年)の借入れで1%の金利を下げたとして、5年間で約125,000円、
月に均すと2,000円程度の負担軽減にしかなりません。

相手の利を確保することが商売の大原則であることを考えると、最大の事業パートナーである金融機関との金利交渉は、慎重に行いたいものです。

 

 

そして財務戦略上、金利交渉よりも重要なポイントは「保証協会保証付き融資をどこの金融機関で利用するか。」です。
保証協会とは、その名のとおり保証をする機関であり、直接融資を行うことはありません。しかし、保証協会の保証さえあれば、例え創業したばかりの企業でもメガバンクから融資を受けることができます。金融機関にとって保証付き融資は安全性の高い魅力的な融資であり、利用者はどこの金融機関でも保証協会の制度を利用して借入を行うことができます。

ここで、メガバンクからプロパー融資を受けられる基準にない企業が、保証協会付き融資をメガバンクで利用したケースを考えてみます。
メガバンクとの関係は、あくまでも保証付きが前提ですので、いざと言う時にプロパー融資をお願いしてもまず門前払いになります。その時に慌てて信金信組に駆け込んでも、初めてお付き合いする相手にいきなりプロパー融資が出る可能性は低くなります。
また、信金信組の立場からすると、「メガバンクは安全性の高い保証付き融資なのに、なぜうちだけがリスクの高いプロパー融資を出さなくてはならないのか?」となります。

別の視点から検証します。貴社が仮に年商2億円の企業と仮定します。大ロットの資金需要がある上場企業クラスをメインの取引先としているメガバンクからすると、貴社はあまり重要ではない顧客になるでしょう。形式上の担当、もしくは担当すらつかないこともありえます。しかし、地域密着型で比較的小規模な事業者を取引先としている信金信組では、貴社は重要な顧客として迎え入れられる可能性があります。エース級の担当がつきプロパー融資も含めて資金面を手厚く支えてもらえる可能性が高まります。

財務戦略のポイントは、いかに早い段階でプロパー融資が可能になるかどうかです。取引が始まって即プロパー融資を受けられるケースは少なく、一般的には保証付き融資から始まって信用を積んだ後、少しずつプロパー融資を受けられるようになっていく流れです。
保証協会の保証枠には上限がありますので、将来的にその枠に頼らないプロパー融資を受けることを念頭において、その保証枠をどこの金融機関に割り当てるかということが重要になってくるのです。

2017年10月30日